脳の中央で最も深いところに位置し、大脳からぶら下がるように存在するので“下垂”体という名前になっています。下垂体は頭蓋骨の底に位置するトルコ鞍と呼ばれる骨の窪みにはまり込んでおり、視神経などの重要な組織に囲まれています。(図1)
下垂体は、複数のホルモンを分泌して、体の調子や成長、リズムを整える役割があり、主に内分泌器官として働いています。
図1
下垂体にできる比較的おとなしい性格の腫瘍(良性腫瘍)です。多くの場合、ゆっくりと時間をかけて大きくなるため、脳ドックなどにより、症状がない段階でみつかることもあります。下垂体腺腫は脳腫瘍全体の約20%程度を占めるとされており、実はそれほど珍しい腫瘍ではありません。
下垂体腺腫による症状には、主に以下の3つの種類があります。
図2
図3
プロラクチン過剰:女性の場合は月経不順から無月経となります。また、不妊治療中の検査で見つかることもあります。数年前から月経不順があり、1年前には無月経となったため、近くの産婦人科医院を受診され高プロラクチン血症を認めたため当院外来を紹介受診された患者さんに対し、薬物療法と外科治療の双方についてメリットとデメリットを説明し、外科治療を選択されたため手術を行いました。視神経(交叉部)と腫瘍は接していなため視野障害はありませんでした。腫瘍は全摘出され、手術後早期から月経が再開しました。(図4)
図4
成長ホルモン過剰:小児では異常な高身長となり(巨人症)、成人では身長が伸びないかわりに骨の変形や顔つきの変化や手足のサイズ増大などが現れます(先端巨大症)(図5)。また、高血圧や糖尿病に対して治療中の場合、きちんと治療を受けていてもどんどん悪化することがあります。
図5
副腎皮質刺激ホルモン過剰:下垂体から副腎皮質刺激ホルモンが過剰に分泌されることにより、副腎皮質からステロイドホルモンの一つであるコルチゾールが過剰に分泌されます。これに伴い、肥満や顔つきの変化(満月様顔貌)などの特徴的な症状が現れます(クッシング病)。また、高血圧や糖尿病に対して治療中の場合、きちんと治療を受けていてもどんどん悪化することがあります。
すでに症状がある場合は治療が必要です。症状の種類や程度によって治療法が異なります。手術だけでなく、放射線治療や飲み薬での治療の組み合わせの中から、最善の治療を選択してゆきます。
図6
一部の下垂体腺腫など、下垂体に関連する病態に対して、難病医療費助成制度の対象となる場合があります(厚生労働省補助事業)。正式な申請と認定が必要となるため、診察時にご相談ください。
「下垂体に腫瘍がある」と言われて心配されている患者さんは、いつでもご相談ください。必ずしも手術が必要ではない場合もありますので、専門的な診断と具体的な治療について、一緒に作戦を立ててゆきましょう。
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