広南病院脳神経外科では、脳神経の病気に対して主に手術による治療を行なっています。治療の対象となる代表的な疾患は、くも膜下出血の原因となる未破裂脳動脈瘤、脳動脈瘤が破裂して引き起こされたくも膜下出血、もやもや病、頭蓋内外主幹動脈狭窄閉塞症、顔面けいれんや三叉神経痛といった脳血管障害です。
治療の際は、血管内脳神経外科や脳血管内科をはじめとする他科、看護師やリハビリテーションのスタッフといった多職種と連携しています。すべての患者さんに質の高い医療を提供できるよう、専門性の高い医療チームで治療にあたる体制です。
患者さんとの信頼関係を何よりも大切にし、治療が必要な方に適切な医療を届けたいと語る鹿毛淳史医師に、お話を伺いました。
広南病院は、東北大学医学部附属病院 長町分院が前身です。初代脳神経外科教授の鈴木二郎先生が1964年に長町分院で診療を開始したのが、東北地方での脳神経外科の始まりと考えられています。
当時、長町地区には外来診療を行う長町分院、入院診療を行う長町分院附属 広南病院、研究施設である脳疾患研究施設がありました。1979年に長町分院は閉鎖され、脳疾患研究施設とともに本院に移転・統合されています。1994年に脳疾患研究施設が廃止されたのに伴い、現在の東北大学脳神経外科は設立されました。
一方、広南病院は長町地区で治療を継続し、鈴木先生は広く東北地方の患者さんに脳神経外科手術を行うとともに「もやもや病」を発見、命名する業績を残しています。
私は、脳神経外科医としての基本資格となる、日本脳神経外科学会専門医・指導医を取得しています。さらに、日本脳卒中の外科学会 技術指導医の資格を有し、サブスペシャリティとして脳血管障害に対する開頭手術を担当しています。専門性を向上するため、カテーテルによる血管内治療に関する日本脳神経血管内治療学会専門医のほか、日本神経内視鏡学会技術認定医も取得しました。
私は日常業務で、外来診療と手術をほぼ半々の割合で担当しています。若手の医師は主に病棟で、患者さんの全身管理や術後管理を担当しています。手術では若手から中堅までの先生も開頭手技を担当しますが、重要な箇所は必ず私たちのような指導医が責任を持って行う方針です。後輩の医師には力量に応じた指導を行い、任せられる部分は担当させて、モチベーションや能力向上につなげています。脳神経外科は、すべての患者さんに高水準の治療を提供できるよう、チーム医療の体制を整え、特に手術や治療では脳外科全体が一丸となって診療にあたっています。
広南病院では、脳血管の病気を脳神経外科と血管内脳神経外科、脳血管内科の3つの診療科で診察しています。脳梗塞、くも膜下出血といった脳の病気になったとき「どの診療科を受診すればいいか分からない」と感じる方がいらっしゃるかもしれません。初めて受診される患者さんには脳神経外科の一般外来を受診していただき、必要に応じて適切な専門の診療科へご案内しています。

脳神経外科で治療している代表的な病気は、脳動脈瘤と脳動脈瘤の破裂によって生じるくも膜下出血です。くも膜下出血を発症すると、激しい頭痛や吐き気があり、重症では呼吸が止まってしまう場合もあります。脳内血腫の部位によっては失語症や歩行障害といった後遺症がでる可能性があるため、MRIや脳血管撮影で検査します。くも膜下出血が起きた場合、おおよそ3人に1人が命にかかわる重篤な状態となり、1人は後遺症を残し、1人は歩いて退院できるといわれています。近年、検診で見つかる方が増えたもやもや病は、脳梗塞や脳出血を起こす可能性がある血管の病気です。将来的なリスクを考え、手術の必要性に対する判断も含めて、当科での診察をお勧めします。
当科で行う脳神経外科の手術で最も多いのは、脳動脈瘤に対するクリッピング術です。クリッピング術は、脳を傷つけないように脳のしわに分け入って、動脈瘤を閉鎖して正常血管を形成する手術です。脳梗塞に対しては、原因によってそれぞれ治療を行なっています。頚動脈狭窄症は、脳に栄養を送る首の血管が詰まって脳梗塞の原因となる病気です。治療法については、手術かカテーテル治療、あるいは内科的治療のいずれが適しているか脳血管内科と相談して決めています。内科的治療の場合は、ご紹介いただいた先生をはじめ近隣の医療機関に継続して診療をお願いしています。脳血流の低下で脳梗塞のリスクが高い患者さんには、頭皮の血管と脳の血管をつなぐ脳血管バイパス術を実施しています。脳梗塞の原因となる、頚動脈につまったプラークを取り除く頚動脈内膜剥離術は、当科でよく行っている手術のひとつです。
当科では、顔面けいれんや三叉神経痛といった、血管が脳神経に触れてけいれんや痛みを引き起こす病気も治療しています。顔面けいれんにはボトックス注射を行うほか、薬や注射で完全に治らない場合は、微小血管減圧手術を行なっています。このほか、主に良性腫瘍に対する摘出手術も行っています。
手術を行う上で大切にしているのは、患者さんとの信頼関係です。私たちは、患者さんが納得して手術を受ける決断ができるように心がけています。外来のほか手術前の検査入院で複数回、対話する機会を設けています。特に、手術に関しては責任医師が時間を取って説明し、患者さんがゆっくり考えられるように配慮しています。
また、入院中はできる限り患者さんのお顔を見て、何気ない会話をするのも大切な関わりと考えています。看護師や多職種のスタッフから「不安そうだから声をかけてください」と情報をもらい、様子を見に行くこともあります。医師だけでは患者さんのすべてを把握できないため、他職種と連携して患者さんとの信頼関係を築くようにしています。
脳動脈瘤の治療では、血管内脳神経外科とすべての患者さんについてカンファレンスを行い、検討した上で、より適した治療方針をご提案しています。患者さんがその方針を望まない場合は改めて協議し、可能であれば代替案を提示します。
患者さんには、選択肢やリスクをわかりやすい言葉でお伝えし、ご自身が理解した上で納得して治療を選択できるように心がけています。例えば、破裂していない脳動脈瘤が見つかった場合は「あなたの動脈瘤が1年間に破裂する確率はどのくらいか」といった客観的な医学データをもとに説明しています。さらに、手術を検討する際は起こり得る合併症のリスクも数値で示し、最終的な判断を患者さんに委ねるようにしています。破裂リスクが低く治療によるリスクが高い動脈瘤であれば、経過観察も選択肢です。脳動脈瘤は、破裂するまで自覚症状が現れず、発見されても生活に支障をきたさない方が多いため、患者さんが何ごともなく元の生活に戻れるように手術したいと考えています。
脳神経は重要な臓器で、治療が難しい場合は一定のリスクがあります。どんなに力を尽くしても、治せない難治性の病気があるのも事実です。危険性の高い患者さんには、気持ちに寄り添いながら、わかりやすく病状をお伝えするようにしています。望まない事態をできるだけ避け、万が一の場合も、最後まで誠意をもって対応するように努めています。
脳神経外科の手術は、適切な患者さんにいいタイミングで手術をするのが重要で、技術に加えて知識や経験も必要です。広南病院は症例数が多く、実績のある病院です。私たちは治療実績のデータをまとめ、良好な成績が保てるよう努力しています。

私は外科手術が好きだから、脳神経外科医を続けてこられたのだと思います。脳神経外科医は精密で複雑な構造をもつ脳にできた病気を取り除き、患者さんの回復に貢献できるやりがいのある仕事です。一般の方にわかりやすく例えるなら、何千ピースもあるパズルを組み立てるイメージかもしれません。脳神経外科手術は、常に高い集中力と緊張感を求められます。術前に準備を徹底し、どのような状況にも対応できるよう万全の体制で手術に臨んでいます。手術では夢中になりながらも、冷静さを保つ必要があり、努力に限界はないと感じます。
医学部の学生時代、私は弓道に熱中していました。弓道は「射法八節」という型があり、昇段試験で息合いなども評価され、礼節を重んじるところが自分に合っていました。世の中の物ごとには、大体「型」があります。手術も典型的な型を学んで実践しながら、よりよい方法へと昇華させていきます。多くの脳神経外科医がそうであったように、私も若手のころは修行のため業務の後で手術室に潜り込み、顕微鏡で人工血管や鶏の手羽先の血管を縫う練習をしていました。
外科医はハードな仕事であり、なり手の減少が社会問題になっています。私は若い医師を指導する経験を通して、社会性があって努力を続けられる人が脳外科医に向いていると感じています。一方で、強い個性を持ち、何かに秀でたものをもっているような人も、脳神経外科で力を発揮できると思います。手術というと、手先の器用さを連想されるかもしれませんが、地道なトレーニングの積み重ねで技術は身につけられます。適性がある学生がいても、他の科でも求められ、脳外科に入局してもらえない場合もよくあります。
手術を任せられるようになるには、タイミングや人との巡り合わせに加えて、運の要素も影響します。しかし、その前提には手術トレーニングはもちろん、雑用であっても前向きに取り組み、努力を惜しまない姿勢が医師として必要だと思います。
最近は医師の働き方改革もあり、広南病院全体で多職種との連携によるタスクシフトを進めるようになりました。脳神経外科はチームでの回診を基本とし、特に新入院の患者さんや経過が心配な方は、看護師やスタッフとも連携しながら丁寧に状態を確認しています。また、リハビリテーションのスタッフと週1回、カンファレンスを行って情報を共有し、診療にあたっています。私が手術や仕事に集中できているのは、優秀な多職種の支えがあるからです。広南病院の全スタッフを信頼しています。

脳神経外科の医師を独り立ちさせるには、長い時間をともに過ごしながら技術や考え方を丁寧に伝える必要があります。実際に1年に1人、医師を育成できるかというほど時間と労力がかかります。何か問題が起きても自分で考え、解決できる能力を身につけるには経験が必要です。私自身も指導医のもと、時間をかけて育てていただきました。
今後、私自身が難易度の高い手術をより安全にできるよう技術を磨いて、脳神経外科医としての道を貫きたいと思います。さらに、技術をしっかり後進に伝え、優れた脳神経外科医を育成するのが抱負です。